ハリス教団参加(2)

折しも日本は長州征伐から、高杉が長州男子の肝っ玉をお見せしている頃で、本国の争乱と困窮は薩摩から留学生への送金に支障をきたした。

ここに救いの手を差し伸べたのが、日本駐在の経験を持つイギリス人外交官、ローレンス・オリファントであった。自分と一緒にハリス教団に参加するなら、アメリカ行きの旅費を負担する、教団では生活費がかからず、学習も出来る、という話であった。

オリファントは英国初代領事のオルコックの秘書として日本にいたこともある外交官である一方で、スウェーデンボルグの研究者乃至信者であった。

オリファントは、当時アメリカにスウェーデンボルグ派のコミューンを作っていたトーマス・レイク・ハリスのグループに参加すべく、母親共々(母親は後着)、薩摩留学生を、まず、NY州内陸部のアメニア(Amenia)へ誘う。その後、この集団は大西洋側でなくオハイオ州に近い方、エリー湖際のNY州ブロクトンへと移住した。

畠山を含めた6人の薩摩留学生は、ちょうどハリス教団がアメニアからブロクトンに移住する頃、アメリカへやって来た。

スウェーデンボルグ派に関する自己的解釈

ウェーデンボルグについてはWikiにも載っているのでご参考頂きたいが、自分の解釈では、聖書や教会ではなく、スウェーデンボルグ(17世紀の人)に代表される霊言を基にする。

キリスト教社会では「神=ジーザス/エホバ」以外の観念がないので、スウェーデンボルグが伝えたという神の言葉は、当然キリスト教の影響があるが、スウェーデンボルグ派はキリスト教の宗派ではなく、一般的にはカルト教団と捉えられると思う。しかし、モルモン教がそうであるように、長く存続すると「カルト」のカテゴリーからはずれるのか、特別異端視されるわけでもない。

しかし、ハリスはスウェーデンボルグの霊言ではなく、自分自身が神と接触して霊言をもたらす。従って、スウェーデンボルグとは関係ないのだが、この手のチャネリング的、霊媒的な機能のある宗教を総称してスピリチャリズムと呼び、スウェーデンボルグ派と呼んでいることも多いと思う。畠山もハリスをスウェーデンボルグになぞっている。いわゆる日本人の感覚では恐山のイタコが宗主になっている形式というか、霊媒体質の教主様が主催する新興宗教は日本にもいくらでもある。日本の場合、神道系、仏教系が多いだろうが、キリスト教圏ではどうしてもクリスチャンに近い教義になる。

自分としては、スウェーデンボルグというとエドガー・ケイシーを連想する(宗教ではないし、スウェーデンボルグとチェネリングしたかどうかは知らない)が、 クリスチャン、及びユダヤ教徒には、旧約聖書の預言者を連想させるだろう。といってユダヤ教のいう「預言者」ではないわけなので、どんぶり勘定で西洋人の過半数は直ちに、問答無用で、そういうものを異端と見る、と考えてよい。

昨今では、スウェーデンボルグ派もメタフィジックスとかスピリチャリズムとかに位置づけられるようにもなり、更には、なんだかんだ登場から200年以上もたってしまったために現在では宗教としての立場を確立してもいる。が、基本的に、そういうものを知っている人の人口自体は少ないので、過半数的な理解では「異端」であるだろう。

西洋人、特にアメリカ人は、招霊、霊媒のようなことを魔法、魔術の一つ、即ち悪魔を介入させるものと捉え、言語道断的に否定する傾向が大変高い。映画「エクソシスト」が、アメリカ人にとって失神するほど恐怖なのは、人間が悪魔に支配されるというところ。日本人には絶対的な悪=悪魔という観念がないので、エクソシストは狐憑き、或いは地縛霊に取り憑かれる程度にしか恐怖でなく、少女の首が180度回ってしまうところなどに調子外れな恐怖をみつけたりしていたものだ。しかし、西洋人にとっては、完全な悪に支配されてしまうところが恐怖なのだ。

彼らの観念では、霊的なことを司っているのは神と悪魔しかおらず、日本のように、だんだらぼっちとか、河童とか、ざしきわらしとか、良い者なんだか悪者なんだかよくわからんけど人間でないもの、というのがいない。漸く最近霊能者(サイキック)という言葉も定着しつつあり、この世ならぬものの存在も外国文化の理解によって認められつつあるが、アメリカ人の場合、雪男、UFOなどが大体同じような不思議カテゴリーに並んでしまったりする。日本人には明らかな境界線が、彼らにはいま一つなのだろう。

従って、霊言みたいなものは、「ま、そーゆーこともあらーね」的には捉えず、神からの予言又は悪魔の誘いの二者択一!!と捉える可能性が極めて高い。といって、神の預言なんぞのわけがないのだから、ということで、そういうものは全部悪魔の仕業と考えられがちになる。

そういう意味で、ハリスは異端の悪魔的な教主様ではあったわけだ。

ところが、 要するに「神は死んだ」と言われた19世紀の西洋社会、特にイギリスの非労働者層=貴族的な層には、オカルトは大歓迎された。エジプトから掘り出してきたミイラの包帯ほどき大会みたいなパーティが盛んに行われていたのもこの時代だ。

オリファントは、この層の人だと思う。

ハリスは物書きで、多くの詩を編んだりもしており、オリファントはそれらのスピリチャルな著作にも魅了されていたらしい。

しかし、家財を投げ打って、しかも日本人の青年達を連れて、斯様な異端視される宗教コミューンに参加しようというのだから、教祖であるハリスよりもオリファントの方が変わった人と言えるかも知れない。自分としては、映画になった場合はロック・ハドソンに演じてもらいたい(死んでるが)と思わせる部分も多分にある。

 

コメントを残す