その頃のアメリカ〜復元劇1

 
 

夏場(5月から9月)に全米各地で行われる南北戦争復元劇。大規模な日光江戸村(お土産とか売ってない)と考えて頂いて良いかと思うが、アメリカ全土にいる南北戦争ヲタクの皆さんが南北戦争を再現するイベントである。

この方面のファンの人しか知らない世界だが、Enactment(Re-enactmentとreをつけて「復元」であることを伝える場合と、reをつけない場合とある)という主に戦闘を主に復元するものと、Encampmentという兵隊その他の生活などを紹介するものなどがあり、戦闘を復元するものは大砲なども出る。

ここでは、ウィスコン シン州イーグルにあるOld World Wisconsinで行われたものを紹介する。

これはEncampmentの方で、戦争でなく、兵士たち、及びその周辺の復元が主になっている。

会場になった公園は、広大な敷地にウィスコンシンに入植当時の建物が移築してある 明治村のようなところ...なんだけど、アメリカは広いので、歩いて移動するのはほぼ無理なため、公園内をバスのようなものが走っていて、それに乗って移動する仕組み(明治村もそうらしい)。この公園は、ミルウォーキーから1時間かからないくらいの場所にあるのだが、そこに着くまでの道の松並木(私には杉並木に見えるのだが、木は松)がすばらしい。

ここでは普段、入植当時の建物を使って当時の生活を紹介しており、子供が糸紡ぎや機織り、ロウソク造りや当時の遊びなどを体験できるプログラムがあったり、 各種イベントが行われる。こういう公園、もしくは歴史保護地域は各地にあり、当時の扮装の人々が、当時を紹介してくれる。

写真は小学校の様子 で、正面に星条旗と初代大統領のワシントンの肖像がある。入植時のアメリカ人には、子供も重要な働き手なので、学校は英語、算数、社会程度のシンプルな 内容。特に、読み書きに重点が置かれていて、机には各自用の石板と鉛筆の芯みたいなもの(名前思い出せない)があり、ここで字を練習する。紙は貴重品なので、一般的には小学校では使われていなかった模様。写真には写っていないが、黒板の横に椅子が一つ置いてあって、不良はそこに個別に座らされるものらしい。よく授業中に正座されられたことを思い出す。

先生は、東部から来た(という設定)そうで、近所の家に寄宿しているとのこと。この人に質問すると、19世紀の人になりきっていて、「私は、ここに来て3年」 とか、その役として、当時を紹介してくれる。

黒板には、「American ends in "I can" not "I can't"」と書かれている。何事も、マイナスをゼロにすることよりも、プラスを更にプラスにするアメリカ人の精神が学校でも叩き込まれるわけ。同じく黒板にPalmer Methodということばが書いてあるが、これは肘から手首までを水平にして、そのまま滑らせるように文字を書く、筆記体の書き方とのこと。

この写真は靴屋の店の中。竜馬が憧れた当時のスタイルの靴が並んでいる。この日、ぼんくらな私のカメラは電池がなくなってしまい、これらの建物が撮れず。他に、雑貨屋、洗濯屋 もあった。雑貨屋は、産業革命/大量生産化の進むアメリカのその時代を象徴して、農具、バケツなどを注文せず、店売りするようになった頃を再現。洗濯屋の 方は、未亡人が娘と共に経営していたという設定で、ストーブでアイロンを熱して、シャツにアイロンをかけることを仕事にしていたとのこと。


復元劇/北軍

この日の復元劇は、敗北がほぼ決定的となった南軍が北軍に降伏する場面を設定したもの。

写真は、通りに見張りを置いて、南軍を探してブッシュ(草原、林)あたりに入って行くようす。北軍のユニフォームは、紺の上着に青灰色のズボン。ここに写っている人たちは、みな歩兵です。

復元劇/南軍

場所は南部なので、住民は南軍に好意的で、ヤンキーを嫌っている。右の写真は女性だけになってしまった家に、南軍が陣を張りに来たところ。テレビも電話もない時代なので、戦況については不明で、かたずをのんで見守るところへ、伝令がやってくる。

「どうしたのかしら」「何の知らせでしょう」「悲しそうな顔をしているのはなぜ?」「息子は帰って来るかしら」などなど話しながら、女性たちは南軍兵士を見守る。

南軍のリー将軍が、北軍のグラントに降伏した、という伝令を受ける南軍の小隊。

負けたのか...と途方にくれる兵隊、涙にくれる兵隊、これで家に帰れると小声で囁き合う兵隊など、さまざま。

こういう劇を露天でやっているんだが、肉声で聞き取れないため、見物人がどんどん近付いて来てしまうし、至近距離での撮影も可。140年昔にタイムスリップして、戦地に肉薄している気分になってしまい、南軍の敗北に思わずもらい泣きしてしまう。

復元劇/北軍

こちらは、北軍勝利が決まり、休憩している北軍兵。

降伏した南軍は、兵隊は武器を全て外し、解放される。隊長、副隊長役などの役付きは、小銃、脇差(みたいな刀)程度の武器の携帯を許され、騎馬兵は馬を連れて帰ることができるとのこと。

こういう北軍を見ている南軍兵たちが、「XXは北軍に寝返りやがった。国に帰って2年くらいしたら、必ず殺してやる...」などと言い合っている。

勝利者、北軍の行進の模様。本当はどうだったか知らんが、この日の出演者(?)たちは、なぜか北軍兵の方が背が高かった。

復元劇/南軍

兵隊から離されて、見張りがついている南軍の隊長と副隊長(座っている二人。赤い帽子が副隊長)。うなだれているのが隊長役で、当初100人あまりいた隊は敗戦を続け、12人になってしまったという設定。

この後、見物人のガキがこの南軍隊長にくっついて、鞄に何が入っているのか、これは何か、などしつこく質問するが、決して21世紀の人にはならず、終始一貫南北戦争の南軍小隊長。 その落ち込み方、髪の毛のばらつき具合などが実に真に迫っていて、外国人見物客ながらも、泣ける。この小隊長に比べると、北軍側の偉そうな人たちは、なん か、デカくてむかつくのは私だけか。。。

そしてこの隊長は、別の年には、リンカーンの2度目の大統領選で、対抗候補の応援演説をする人、という役をやっていた。多分、この時代を演じるプロの方だと思う。

ガキが鞄を開けたので、中身を見せてくれた(写真は電池切れにて撮れず!)ところ、どことかで入手した新聞(ほんとに古い記事の復刻版)、小銃、たばこ、寝る時に敷く毛布、スカーフ(マフラー)、替えのシャツなど。ほかに、塩漬けポークというのや、乾パン(というか、乾いたビスケット)があって、塩漬けポークは、三日もかけて塩抜きして、ちょっとずつ食べるものとのこと。

北軍の役付きの人々に比べて、かなり貧乏くさいので、「あなたのランク(階級)は何?」と聞くと、Captain(大尉)だが、上位士官が全て死んだため、最高位の彼が隊長になっているとのこと。なんか、もう、140年前の世界に旅して、140年前の人と話したような、実に不思議な気分で、たまらん。

劇の休止時間には、こんな風に、見物人に銃の持ち方などを教えてくれる人もいる。私も勿論やらせてもらいましたが、肩に担いで歩く姿勢とか、脇に抱える歩行の時の持ち方、下ろし方 など、簡単に見えるけど重い!難しい!この辺から始めないと兵隊として使えないということで、幕末には外国から様々な兵式の教官というのがやって来たのも納得。戦闘の方の復元劇の場合は、これに大砲隊も付くので、急激に西洋化した幕末日本の兵隊の大変さが知れるというもの。

ところで、これらのヲタク出演者のみなさんは、恐らく全員ボランティア...というか、金払ってもやりたい人たち。

帰りに駐車場で会った北軍兵(笑)に聞いたところ、服、持ち物、全て自前で、「金のかかる趣味だよ~」とのこと。銃はマスケットと呼ばれる単発銃で、もちろんレプリカ(彼の場合。当時の本物、即ちアンティークを持っている人もいるそう)だけど、実際に実弾を装着でき、好事家はそれで猟をしたりもするらしい。彼は、本業が先生なので、学校が夏休みの間、いくつかの復元劇に参加するだけだそうだが、中には全米を転々とする専門家(?)もいるとのこと。彼が言うに、この公園は公道からも遠くて、廻りが林なので、臨場感があっていいとか。 中には、それほど広いところではなく、都市部に近い会場なんかの場合、すぐ外をがんがん車が走ったり、家族連れが全然無関係にピクニックとかしているよう なところもあって、この公園は絶好とのこと。

「帰って銃を掃除しなきゃ!これが大仕事なんだよ」と言って、車に乗って帰ったけど、ほんと、タイムスリップ感も満喫の充実のイベントでした。

 

南北戦争復元劇の見物